良い会社とは何か? 優れた企業とは何か?
あるいは、長きにわたって人々に尊敬される企業とはどういうものか?
私自身は、ある時期までそのようなテーマに関心を抱くことがなかった。
企業とは利益を生み出す装置であり、たまたまそれに関わった人たちが人生の一時期を過ごす「場面」のようなものだと考えていたからだ。
そういう考え方は浅いなと思い直したのは、企業の仕組や方針というものに多少深く関わるようになってからだ。もちろん、その「企業」にはクライアントだけではなく、当社も含まれている。
だから『ビジョナリーカンパニー』を読んだのは、ずいぶん後になってからだ。
コリンズは、この本の中で、膨大かつ詳細な調査をふまえて、18の「偉大な企業」がなぜその卓越した力を持ちえたかを明らかにしている。大半の経営書が、特定のセオリーを検証する(もっともらしく見せる)ために企業事例を引っ張り出すのとは異なり、コリンズとそのプロジェクトチームは、先入見を排して、多くの人に「偉大な企業」と認知されている18社を(そのライバル企業と比較考量しながら)周到に分析していった。
そこから見えてきた共通の特徴は意外なものだった。
コリンズは、一般に信じられている成功企業の「12の神話」が、彼らの調査分析した18の企業にはことごとく当てはまらないという事実を発見する。
例えば...
神話1 素晴らしい会社を興すには素晴らしいアイデアが必要である
→18社の中には、アイデアなしに始まった会社も、スタート地点でかなり遅れをとっていた企業もある
神話2 素晴らしい会社には偉大なカリスマ的指導者が必要である
→カリスマではなく、名前を知られていない控えめなリーダーが多い。むしろカリスマはマイナスになる
神話3 成功している企業は利益の追求を最大の目的としている
→株主価値や利益の最大化は、いくつかの目標のひとつにすぎない(しかし、実際は利益至上主義の企業より稼いでいる!)
神話4 偉大な会社には、共通した「正しい」基本的価値がある
→価値観はまちまちであり、共通していない。決定的な点は、理念の内容ではなく、理念をいかに深く信じているか、いかに徹底して実行しているかである
後の8つは省かせていただくが、『ビジョナリーカンパニー』が面白い本になっているのは、上記の「神話の解体」から伺えるように、名門企業の貴種性(エリート性)ではなく、その根幹にある愚直な平凡さを照らし出したところにある。
天才のアイデアも、カリスマの指導力も、利益を生み出す仕組も本質ではない、その企業と構成員が自身の価値観をいかに深く信じて、それを実践しているかが本質だと語っている。
スーパーマンが大好きで、個人主義とプラグマティズムが深く根づいた米国にあって、『ビジョナリーカンパニー』は、名もなき人々が信念をもって支える組織の価値を評価した点で大きな意義を持っている。
コリンズの業績はもうひとつある。
それは「偉大な企業」を手の届かない高みに鎮座させず、これから成功を目指して業を起こそうとする、あるいは凡庸な自社を「偉大な企業」に変えようとする、普通の人々に勇気を与えたことだ。
ほとんどの経営者は、素晴らしいアイデアを持ち合わせず、卓抜なカリスマでもない。しかし、深く信じられる価値を見出せば、長い時間をかけて「偉大な企業」へにじり寄る道はある――これはコリンズが次著『ビジョナリーカンパニー2』で説いたことでもある。
