不振をかこつGMの大株主が、日産・ルノー連合に秋波を送っている。ゴーン氏も本件に積極的である。実現すれば、世界で1,500万台を売る巨大グループが誕生する。何年か前に語られた「規模の経済」の神話が蘇った。
クルマは20世紀で最も成功した商品である。スピードと自由というふたつの価値によって爆発的な需要を喚起し、高額の耐久消費財として乗り手の価値観や社会的地位を象徴する「物神」にもなった。成功者は高級車によって、子どものいる家族はファミリーカーによって、アウトドアライフ派は4WDによって、人生にはぐれた若者は車高の低いクーペによって、自らのあり方を表現してきた。クルマのラインナップは細かな仕様によって差異化され、社会階層に対応した見事なブランドの階層を形成してきたのである。
さて、そのクルマが売れなくなっている。生活者はクルマに金を払う意欲を失っているようだ。国内市場では「軽高登低」が続いており、売れるのは税金や保険が安く、燃費も有利な軽自動車(非登録車)ばかり。しかも、買い手には暮らしにゆとりのある(かつてはベンツやクラウンを買っていた)中高齢者層も多いと聞く。つまり、クルマメーカーとユーザーが営々と築いてきたブランド・ピラミッドが、音を立てて崩れ始めているのだ。さらに怖いことに運転免許を持たない若者たちが増えているという。少子化に輪をかけてこの産業の将来顧客は減少しつつある。ひょっとすると自動車の産業と文化の何かが終わりかけているのではないだろうか。
一方、トヨタとホンダの両社が、2009年前後に日米欧で排ガス規制が強化される「2009年問題」を睨んで、環境技術への投資をアピールしている。トヨタはハイブリッド車の車種を4年後に倍に増やすとし、エタノール車の投入も宣言した。ホンダは強力な排ガス浄化機構を備えたディーゼルエンジンの開発を予告した。ホンダにはCVCCエンジンでマスキー法をクリアした栄光があるし、トヨタはプリウスの成功を踏み台にハイブリッド車でいよいよ稼ぎに出ようとしている。自動車業界の競争の焦点はここにある。日産・ルノー連合とGMの提携にも環境技術への巨大投資が影を落としている。
国内自動車販売の不振と環境技術への投資は別の文脈だが、もちろんつながっている。エネルギー資源を浪費し、地球環境に負荷を与えるクルマに抵抗を感じる生活者は確実に増えているから、「環境に優しい」クルマこそ次のブランド価値であるという経営判断には正当性がある。
ただし、事態の本質はもう少し深いところにあるのではないか。私は20世紀を通して育まれたクルマに対するやや子どもっぽい信仰――クルマは一人前の人間やまっとうな家族には不可欠な道具だという信仰――が失われつつあるような気がしてならない。誰もがクルマを欲しがっているはずだという暗黙の前提をいったん捨てて考え直してみることも必要なのではなかろうか。
GM・日産・ルノー連合の「規模の経済」に懐疑の目を向ける専門家がいるのはうなずける。大きな会社には、たぶん、私が書いたようなことが伝わらないからだ。
(フジサンケイビジネスアイ2006/07/12)
