[2010年8月10日]
英語のコミュニケーションは得意ではない。まったく出来ないわけではないが、あるレベルを突破することなく、この歳まできてしまった。
多くの日本人と同様、読む・書く・聞く・喋る、の中では、「読む」機会が一番多い。副業で英語の本を翻訳したこともあるから、まあ、読めるような気もするが、翻訳は日本語力でかなりカバーできるので、あまり当てにはならない。
「聞く・喋る」については、複数の英会話学校に通ったし、英会話の教材にそれなりの投資をしてきたものの、めざましい成果はなかった。バリ島あたりのレストランで、現地の(勉強熱心な)若者と他愛のないお喋りをするぐらいが関の山。ネイティブ・スピーカーと多少込み入った話を交わすなんて、まずありえない...
そんな中途半端な英語コミュニケーターだから、英語のできる人は羨ましい。英語の達人に過剰な羨望を感じるのは日本人の特徴でもあるが、私もそこから自由ではない。
でも、東工大で英語を教えている原賀真紀子さんの『「伝わる英語」習得術――理系の巨匠に学ぶ』を読んだら、「英語力」というものに関する自分の無知と蒙昧の霧が晴れた。
いや、思い込みに気づかされたと言ったらいいか。
原賀さんは、この本で、きたやまおさむ(精神科医・作詞家)、小柴昌俊(物理学者)、養老孟司(解剖学者)、日野原重明(医師)、海堂尊(作家・病理医)、隈研吾(建築家)といった錚々たる面々にインタビューを行い、彼らがどんなふうに英語を学び、結果的にどんな英語観を持つに至ったかを聞き出している。
興味深い話ばかりである。それは、この方々が、いわゆるぺらぺらの「英語屋」ではなく、英語に向き合い、英語に泣かされながら、英語で「本当の仕事」をしてきた方だからだ。それだからこそ、英語を通して、日本人の弱点や課題も見えてくる。
例えば、インタビュイーのひとり、養老孟司さんは、日本人は言語に関する身体能力、言語運動能力やボディランゲージ能力が低いと指摘する。言葉の抑揚も表情の変化も乏しい日本語の世界に住む我々は、そもそも外国語オンチなのである!
そう言われると、なんだかほっとする。
さらに、養老先生は、原賀さんと掛け合いながら、日本人が英語をネイティブ・スピーカーとのコミュニケーションを中心に考えすぎてきたと言う。英語は他の言葉に比べて、語彙も発音も例外だらけのルーズな言葉だから、「世界の公用語」たりえたのであって、日本人はこういう英語のいいかげんさ、柔軟性を生かせていない(考えてみれば、世界中の英語の大部分は、ネイティブ以外の人々に話されているのだ)。つまり、キングス&クイーンズ・イングリッシュに倣おうとする日本人の律義さが、さらに英語の敷居を上げてしまっている。どうやら、我々は言語身体能力だけでなく、言語文化能力でもけっして高い位置にいないようなのである。
さて、この本をお書きになった原賀さんをお招きし、9月17日(金)にビジネスセミナーを開催することになった。
タイトルは「なぜグローバル人材が育たないのか―英語力と対話力を伸ばす学びと仕組み」。原賀さんの他に、三菱商事でグローバル人材マネジメントの最前線に立つ神﨑慎治さん、日本IBMやコンパックなどの外資系企業で長く国際ビジネスに携わってこられた村井勝さんをお招きして、お三方のご講演をいただく。
最近、日本企業の「グローバル化」がマスメディアを賑わしている。ユニクロや楽天の「英語公用語化」が先進的と語られる一方、もはや「グローバル化」は単純な英語化で済まされるような時代ではないという意見もある。
このセミナーの狙いは、サブタイトルに「英語力と対話力」とあるように、世界で活動するビジネスマンのコミュニケーションを、英語だけでなく、対話する力、すなわち伝える「内容」と伝えたいという「意志」の両面から考えるところにある。
養老さんの言うように、日本人は言語身体能力や言語文化能力で他の文化圏の人々より劣るのかもしれない。でも、それが仕方のないことだとすれば、我々はネイティブ・スピーカーのように語る「ネイティブ・イングリッシュ」ではなく、ネイティブ以外の多数の人々が使う「世界の公用語」としての「グローバル・イングリッシュ」の世界へ――むしろ開き直って――飛び込めばいいのではないか。
もちろん、その雑多で変化に富んだ言語宇宙の中でコミュニケートするには、従来の英語学習とは一味違う方法が求められるだろう。
『「伝わる英語」習得術』の中で、小柴昌俊さんはこんなふうに言っている。
まず、自分の喋ることに自信を持っていないとね。中身に自信を持っていれば、表現が下手だろうが、少しぐらい不適当であろうが、そんなことは気にすることはない。いちばん大事なのは、自分の言おうとしていることが、はたして価値のある内容なのかどうか。それだと思うよ。(「世界の公用語はブロークン・イングリッシュ」)
「価値のある内容」を伝える英語――当たり前のように聞こえて、しかも最も高度な課題に、日本のビジネスマンは遭遇している。日本企業のグローバル展開の軸が、欧米の成熟市場への輸出から、多極化した世界との交流や協業へ移る中、英語力の意味もまた変化しつつあるのではないだろうか。ご関心のある方は、ぜひ、下記案内をご覧の上、ご参加ください。私が司会進行を務めさせていただくことになっています。
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★この文章は、ケイズワークのニューズレター「K'S LETTER」に掲載されたものです。
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